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献花 [コラム]

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1年ぶり近くになろうか、あるお店に入る。少し照明を落とした店内、暫くすると奥から白髪頭の来ない内にちょっと小さくなった店主が現れた。

「ご無沙汰しております。」と私が言うと、「あぁ、◯◯君。よく来たね。」と声まで小さくなった返事が帰ってきた。

中学1年の時から通う理容店で、この店とはもう40年近い付き合いになる。今日、ようやく時間とタイミングが合い、この店に訪ねることができた。

40年の付き合いとは言っても、実家を離れてからは、そう毎回髪を切りに来ることもなくなり、他店で切ることも多くなってしまったが、時々顔を覗かせには来ていたのである。夫婦で仲良く切り盛りしながら真面目にコツコツやっている姿に憧れてもいた。
一緒にMTBで山を走ったり、愛車のHONDA BEATでドライブに行ったりと、お店以外での付き合いもあった。整体にも詳しく、体が調子悪いときはよく診てもくれた。



今日久々にこの店を訪れた一番の目的は髪の毛を切ることではなく”ご挨拶”にである。

昨年11月末に最愛の奥様が他界された。
一昨年の夏、余命半年と医師から宣告されてから、店主のご主人が懸命の看病で信じられないほど回復され、奇跡とまで思って皆で喜んでいたのであったが、告知から1年半旅立って行かれた。

いつ行っても明るく対応してくれて、親身になって相談ものってくれたりと、夫婦で大変良くしてくれた。自分の父親の最後の散髪をしてくれたのも奥様であった。


奥様が亡くなられたと聞かされたのは奇しくも、自分が車で大事故を起こした翌日のことである。

自身の怪我の回復と仕事の関係で年を越してしまい今日になってしまった。

仏壇には誰からも好かれた笑顔の素敵な奥様の写真が、沢山の鮮やかな御花に囲まれて飾られていた。その脇に私も御花をあげさせていただいた。


そのあと店主に髪を切って貰った。切っている最中、遺品の奥様の携帯を見せてもらう。そこには笑顔の自分の父親と奥様が写し出されていた。
そして毎回〆にやってもらう”あんま”は今日に限り、ご主人のあんまのやり方ではなく、奥様の”それ”であった。

ふとまぶたの裏側が熱くなった。


長い間ありがとうございました。今はゆっくり休んでください。


お店を出るとき、「ありがとう。またねぇ~!」の奥様の声が奥の方から聞こえたような気がした。




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